犬と人間が共に暮らすようになったのは、今から約3万2000年前とも言われています。 狩猟によって食料を得ていた野生のオオカミから、人間と暮らす中で雑食化するなど、犬は長い年月をかけて人間と共に進化してきました。そんな犬の食生活を支えるドッグフードの歴史は、実はまだ160年ほどしかありません。
本記事では、ドッグフードの起源や歴史、種類、選び方から、最新の研究や今後の展望までを詳しく解説していきます。
ドッグフードの起源
世界で初めて商業用ドッグフードが作られたのは1860年代のイギリスです。 アメリカ人実業家のジェームス・スプラット氏が、船員たちが残飯の硬いビスケットを犬に与えているのを見て、犬専用のビスケットを開発しました。
これが「ドッグビスケット」として販売され、世界初のドッグフードの誕生となりました。 当時のビスケットは、小麦、野菜、ビート、牛の血を混ぜて作られていました。
ドッグフードの歴史と進化
初期のドッグフード

1922年には、アメリカで馬肉を原料とした缶詰タイプのドッグフードが登場しました。 これは、第一次世界大戦後に余剰となった馬肉を有効活用するために開発されたものです。
ドライフードの登場
1950年代に入ると、アメリカでドライタイプのドッグフードが登場しました。 当初は粉末状のものが主流でしたが、 1956年にはラルストン・ピュリナ社(現ネスレピュリナ)が、押し出し成形技術を用いた世界初の粒状ドライフード「DOG CHOW」を発売。
保存性が高く、手軽に与えられるドライフードは、瞬く間に世界中で普及しました。 ドライフードの登場は、ドッグフードの歴史における大きな転換点と言えるでしょう。
日本におけるドッグフードの歴史
日本では、戦後にアメリカ軍が持ち込んだドッグフードがきっかけとなり、1960年に国産初のドッグフード「ビタワン」が発売されました。
当時のビタワンは粉末タイプでしたが、その後ビスケットタイプやペレットタイプも登場し、 高度経済成長と共に犬を飼う家庭が増える中で、ドッグフードは徐々に普及していきました。
ドッグフードの種類

ドッグフードは、目的別に「総合栄養食」「間食」「療法食」「その他の目的食」の4種類に分類されます。 この分類は、ペットフード公正取引協議会が定めるものです。
ペットフード公正取引協議会とは
ペットフード公正取引協議会は、ペットフードに関する公正な競争を促進し、消費者の利益を保護することを目的とした団体です。ドッグフードの表示に関する規約を定めたり、不当な表示や広告を監視したりするなど、様々な活動を行っています。
ドッグフードの目的別分類
種類 | 説明 |
総合栄養食 | 犬に必要な栄養素がバランス良く含まれており、水と一緒に与えることで健康を維持できるフード |
間食 | 主食のドッグフードに少量混ぜて与えるおやつ |
療法食 | 特定の病気の犬のために、栄養バランスを調整したフード |
その他の目的食 | 食欲増進や栄養補給などを目的としたフード |
ドッグフードの形状別分類
ドッグフードは、形状別に以下の4種類に分けられます。
- ドライフード: 水分含有量10%以下の、カリカリとした食感のフードです。 開封後の保存期間が長く、最も一般的なタイプです。
- ソフトドライフード: 水分含有量25~35%の、ドライフードよりも柔らかい食感のフードです。 しっとりとした質感が特徴です。
- セミモイストフード: 水分含有量25~35%の、ソフトドライフードよりもさらに柔らかい食感のフードです。
- ウェットフード: 水分含有量75%以上の、缶詰やパウチに入ったフードです。
ドッグフードの選び方
愛犬に最適なドッグフードを選ぶことは、健康維持のために非常に重要です。 以下のポイントを参考に、愛犬の年齢や体質、健康状態などに合わせてフードを選びましょう。
- 総合栄養食を選ぶ: 犬に必要な栄養素をバランス良く摂取できる総合栄養食を選びましょう。
- 原材料を確認する: 肉や魚など、良質な動物性タンパク質が主原料となっているかを確認しましょう。 また、原材料の産地や品質についても確認することが大切です。 特に、肉の種類が明確に記載されているか、曖昧な表記(例:「肉類」「ミール」など)ではないかを確認しましょう。
- 添加物の量をチェックする: 着色料や香料など、犬の健康に不要な添加物はできるだけ避けましょう。 特に、BHA、BHT、エトキシキン、亜硝酸ナトリウム、プロピレングリコールなどの危険性が高い添加物は注意が必要です。 これらの添加物は、発がん性やアレルギー、内臓への負担などのリスクが指摘されています。
- 年齢に合わせたフードを選ぶ: 成長期、成犬期、老犬期など、年齢に合わせた栄養バランスのフードを選びましょう。
- 犬種や体質に合わせる: 犬種や体質に合わせたフードを選ぶことも大切です。 例えば、アレルギーがある場合はアレルゲンとなる原材料を含まないフードを選びましょう。 また、犬種によっては、特定の病気にかかりやすい傾向があるため、その犬種に合わせたフードを選ぶことも有効です。
- 賞味期限を確認する: 賞味期限内に食べきれる量のフードを選びましょう。 また、開封後はなるべく早く使い切りましょう。
- 価格: 価格が高すぎても安すぎても問題があります。 高すぎるフードは継続して購入することが難しく、安すぎるフードは品質面で不安が残ります。 価格と品質のバランスを考慮して、無理なく続けられるフードを選びましょう。
グレインフリー・オーガニックとは?
グレインフリードッグフード
グレインフリーとは、穀物不使用という意味です。 犬は穀物の消化が苦手なため、グレインフリーのドッグフードは消化器系への負担を軽減できる、アレルギーのリスクを減らせるなどのメリットがあります。 しかし、グレインフリーのフードは価格が高くなる傾向があり、すべての犬に必要というわけではありません。
オーガニックドッグフード
オーガニックドッグフードとは、化学合成農薬や化学肥料を使わずに作られた原材料を使用したドッグフードです。 環境への負荷が低く、犬の健康にも良いとされていますが、こちらも価格が高くなる傾向があります。
犬種別ドッグフード
犬種別ドッグフードとは、特定の犬種の特徴や体質に合わせて作られたフードです。 例えば、ダックスフンドは胴長短足のため、腰や関節に負担がかかりやすいことから、グルコサミンやコンドロイチンを配合したフードが販売されています。 また、チワワは体が小さいため、小粒で消化しやすいフードが販売されています。 犬種別ドッグフードは、その犬種が抱えやすい健康問題に対応できるというメリットがありますが、価格が高くなる傾向があります。
ドッグフードの安全性
ペットフード安全法
日本では、「愛がん動物用飼料の安全性の確保に関する法律(ペットフード安全法)」 により、ペットフードの安全性に関する基準が定められています。 この法律では、有害物質の混入禁止や原材料の表示義務などが定められており、違反した場合は罰則が科せられます。
AAFCO
AAFCO(米国飼料検査官協会)は、アメリカの州政府機関の職員で構成される任意団体です。 ペットフードのモデル法や規制を開発し、各州が独自の州法に採用できるようにしています。 AAFCOは、ペットフードの栄養基準や表示に関するガイドラインを定めており、ペットフードの安全性確保に重要な役割を果たしています。
ドッグフードに関する最新研究
最近の研究では、犬の体重管理にプロバイオティクスが有効である可能性が示唆されています。 プロバイオティクスとは、腸内環境を整える善玉菌のこと。 プロバイオティクスを摂取することで、代謝が活性化し、体脂肪を減らす効果が期待されています。 また、腸内環境を整えることは、消化吸収の促進や免疫力向上など、様々な健康効果にもつながると考えられています。
フードローテーション
フードローテーションとは、複数の種類のドッグフードを定期的に切り替えて与えることです。 フードローテーションを行うことで、特定の栄養素の過剰摂取や不足を防いだり、犬の食の偏りを防いだりすることができます。 フードを切り替える際は、1週間ほどかけて徐々に新しいフードの割合を増やしていくことが大切です。 また、犬の体調や便の状態を見ながら、フードローテーションを行うようにしましょう。
海外のドッグフード事情
市場規模
世界のペットフード市場は、2021年に約1036億ドルと評価され、2030年には約1300億ドルに達すると予測されています。 特に、北米やヨーロッパでは、ペットの飼育頭数の増加やペットフードのプレミアム化が進んでいることから、市場の拡大が続いています。
規制
海外では、ペットフードの安全性に関する規制が厳しく、 原材料や添加物の使用が厳しく制限されています。 例えば、EUでは、ペットフードに使用する動物性副産物は、獣医検査を受けたものに限られています。 また、アメリカでは、FDA(食品医薬品局)がペットフードの安全性を監視しており、FSMA(食品安全近代化法) に基づいて、製造工程や衛生管理などが厳しく規制されています。
並行輸入品
海外のドッグフードを購入する際は、並行輸入品に注意が必要です。 並行輸入品とは、メーカーとの正規契約がない業者が輸入した製品のこと。 並行輸入品は、正規輸入品と比べて品質や安全面でリスクがあり、 保存状態が悪かったり、賞味期限が切れていたりする可能性があります。 愛犬の健康を守るためには、正規輸入品を選ぶようにしましょう。
ドッグフードの未来

今後の開発
AIを活用したパーソナライズフードの開発が進んでいます。 犬の個体情報(犬種、年齢、体重、活動量、健康状態、アレルギーの有無など)や健康状態に合わせて、最適な栄養バランスのフードを提供することが可能になるでしょう。 また、腸内フローラの検査結果に基づいて、個々の犬に最適な栄養素を配合したフードの開発も進められています。
テクノロジーの活用
IoTやAIを活用した、自動給餌器や健康管理サービスが登場しています。 自動給餌器は、決まった時間に決まった量のフードを自動的に与えることができるため、飼い主の負担を軽減することができます。 また、健康管理サービスは、犬の活動量や睡眠時間、食事量などを記録し、健康状態を把握することができます。 これらの技術により、犬の食生活をより便利で健康的なものにすることが期待されています。
持続可能性
環境負荷の少ない原材料や製造方法が求められています。 従来のドッグフードは、製造過程で多くのエネルギーを消費したり、環境に悪影響を与える廃棄物を排出したりすることが問題視されていました。 今後は、環境負荷の少ない原材料を使用したり、製造過程で排出される廃棄物を削減したりするなど、環境に配慮したドッグフードの開発が進むと考えられます。 また、昆虫食 や培養肉 などの代替タンパク質の活用も期待されています。 これらの代替タンパク質は、従来の肉と比べて環境負荷が低く、持続可能な社会の実現に貢献すると期待されています。
まとめ
ドッグフードは、犬の健康を支える上で欠かせないものです。 1860年代に世界初のドッグフードが登場して以来、ドライフードの登場やペットフード安全法の制定など、様々な進化を遂げてきました。 今後も、AIやIoTなどのテクノロジーの進化や、環境問題への意識の高まりなどを背景に、ドッグフードはさらに進化していくと考えられます。 本記事で紹介した情報や選び方のポイントを参考に、愛犬に最適なドッグフードを選んで、健康的な食生活をサポートしてあげましょう。
参考文献:
The History of Pet Food
ペットフード市場規模、シェアおよび傾向分析レポート
Very Different: US Pet Food and EU Pet Food
Report: AI opens doors to pet food innovation